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大発掘/辰巳ヨシヒロ。

【2009年6月13日(土)】

大発掘/辰巳ヨシヒロ。_c0193390_134126100.jpg●大発掘
辰巳ヨシヒロ
青林工藝舎
2002.9.25 初版第1刷


 阿佐ヶ谷「書原」最奥にあるマンガ本コーナーの棚の一番高いところにこの本はひっそりと買い手を待っていた。
 新刊本であるにも関わらず、背は日焼けして色が褪せており、小口の部分も日焼けして一部変色していたのだった。


 それでもこの本が欲しかったので、定価どおりの1,600円+税で購入。

 70年代の作品群であるにも関わらず、絵柄の古さと暗さにかけては60年代を髣髴とさせる。
 帯にいわく。
 ●単行本初収録! リアリスティックな描線 ストイックなコマ割り 地べたすれすれの視点で描くもうひつのファンタジー
 暗い。暗い。救いようもなく暗い底辺労働者の生活と心情がこれでもかと綴られている。
 驚くべきは、この作品が描かれた30数年前といまとを比べて、この出口のない暗さに少しも違和感がないという<現実>なのだ。
 劇画提唱者の辰巳の作家的なスタンスは、この作品を社会的な<告発>として描いたのではあるまい。
 むしろ、さいとう・たかを とは袖を分かった辰巳自身の劇画のタームは、まさに「地べたすれすれの視点」で現代人の生活を描くことにあったのではないか。
 作中の「ポケットの中の女」(「増刊ヤングコミック」1973年1月9日号)は、アパートに妹と暮らすモテない工場労働者の兄が、ダッチワイフに妹のパンティーをはかせて自慰を繰り返す話だ。

大発掘/辰巳ヨシヒロ。_c0193390_751727.jpg

 モテないことの徹底的に無慈悲で絶望的な<現実>は、36年を経てなおリアルな問題なのである。
 アキバ大量殺人事件の犯人の中にある心の闇はこの本の中にある。
 それほど、現代(戦後社会)は、最初から光なき世界だったことが、この本を読んでわかるのだ。特に底辺で生きる人間にとっては。

 そうなのだ、格差は最初からあった。そして、それはなくならない。
 時間が時系列的に進化を生むなどというのはタワゴトだ。
 歴史の進化という幻想をコケにするほどの<現実>。「地べたすれすれの視点」での描画。
 足で稼いで取材したデータ処理だけがフィールド・ワークではない。
 作家の描く、<現実>よりもリアルなフィクションこそが、想像力=クリエイティブによる強力なフィールド・ワークなのではないか。

大発掘/辰巳ヨシヒロ。_c0193390_14165858.jpg●大発見
辰巳ヨシヒロ
青林工藝舎
2002年11月発行

 「大発掘」に先立つ短編集の「大発見」。
 初版の2002年から7年が経つ。
 いつでも買えるとタカをくくっているととんでもない目に遭うのだ。
 アマゾンで表示は出るものの在庫はない。オークション・サイトでは9,000円の値がついていたよ。
 ボクは出たばかりのこの本を、高円寺文庫センターが引っ越す前の店舗で見て、いつか買おうと思ってこんにちに至り、この有様だ。

 ところで、この本のキャッチがまたシビれるのさ。
 ●劇画の提唱者辰巳ヨシヒロが描く片隅のドラマ------ 元祖〝負けグセのセオリー〟。

 OK。いつか、どこかで会おう。
 会うのも縁、会わざるもまた縁なのだ。 
 (^ε^)-☆Chao!!

by misaochan3333 | 2009-06-14 13:42 | まんが道  

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